有限アーベル群の構造定理

レオポルト・クロネッカー (1823–1891)

有限アーベル群の構造定理(ゆうげんアーベルぐんのこうぞうていり、: structure theorem of finite abelian group)は、数学の特に群論における定理であり、有限アーベル群の基本定理(ゆうげんアーベルぐんのきほんていり)とも呼ばれる。 任意の有限アーベル群巡回群直積同型であることを主張するもので、Kronecker (1870) によって示された。この定理は有限生成アーベル群の構造定理(フランス語版)の特別の場合として、さらに単因子定理、すなわち主イデアル整域上の有限生成加群の構造定理に一般化される。

定理の主張

定理 (Kronecker)
有限アーベル群 G に対し、1 より大きい整数からなる列 (a1, a2, …, ak) が一意に存在して、G はこの数列の各項に等しい位数を持つ巡回群直積群に同型: G Z / a 1 Z × Z / a 2 Z × × Z / a k Z {\displaystyle G\simeq \mathbb {Z} /a_{1}\mathbb {Z} \times \mathbb {Z} /a_{2}\mathbb {Z} \times \cdots \times \mathbb {Z} /a_{k}\mathbb {Z} } であり、かつ各 i = 1, …, k − 1 に対して ai+1ai を割り切る。

この一意に定まる数列を G の不変系、その各項を G単因子と呼ぶ。

証明

この定理の証明法はいくつも存在する。筋の良い証明の一つは群の表現論を用いるもので、ほかにも例えば有限群の指標を用いるものもある。

以下に示すものは完全に群論の枠組みに収まるもので、分解の存在性は補題 1 による(それには補題 2 を用いる)。

補題 1 ― 冪数[1]:47 e を持つ任意の有限アーベル群 G に対し、G の位数 e を持つ任意の巡回部分群は、G の直積因子である。

証明

C をそのような部分群とし、G を生成するために加える必要がある C の元の数 k の最小値に関する帰納法で示す。k = 0 のときは C = G は自身の直積因子であるからよい。k > 0 のとき、C の生成元を g0 とし、Gg0, …, gk で生成されるならば(帰納法の仮定により)Cg0, …, gk−1 の生成する部分群 G′ の直積因子である。したがって、G′ 上で定義された C の上への標準射影 φ′ が存在する。その G 上定義された射影への延長が、 x G y g k φ ( x + y ) = φ ( x ) + φ ( y ) {\displaystyle \forall x\in G'\quad \forall y\in \langle g_{k}\rangle \quad \varphi (x+y)=\varphi '(x)+\varphi ''(y)} と置くことにより定まる。ただし φ : g k C {\textstyle \varphi ''\colon \langle g_{k}\rangle \to C} は適当に選んだ群準同型である。より精確に書けば、φ″ に関する条件とは ψ : G × g k C , ( x , y ) φ ( x ) + φ ( y ) {\displaystyle \psi \colon G'\times \langle g_{k}\rangle \to C,(x,y)\mapsto \varphi '(x)+\varphi ''(y)} + : G × g k G {\textstyle +\colon G'\times \langle g_{k}\rangle \to G} 分解することであり、このとき写像 φG矛盾なく定まって、φC を像とする射影となり GCφ の核との直積になる。

ψ が演算 "+" の分解であるということは、準同型定理により、それがこの準同型の核(すなわち h が部分群 HG′gk 上を亙るときの対 (h, −h) 全体の成す集合)上消えていることを意味する。つまり φ″Hφ′ に一致する. gk の位数は C の位数を割り切るから、ゆえに φ″ は常に存在し、したがって補題が従う。

補題 2 ―  e, m は正整数で me を割り切るものとし、H を巡回群 Z/mZ の部分群とする。任意の準同型 ρ : H Z / e Z {\textstyle \rho \colon H\to \mathbb {Z} /e\mathbb {Z} } は準同型 ρ : Z / m Z Z / e Z {\textstyle \rho '\colon \mathbb {Z} /m\mathbb {Z} \to \mathbb {Z} /e\mathbb {Z} } に延長できる。

証明

Z/mZZ/eZ の部分群に同型であるから、一般性を失うことなく m = e と仮定してよい。dH の位数とすれば、 d ρ ( H ) = ρ ( d H ) = ρ ( 0 ) = 0 {\textstyle d\rho (H)=\rho (dH)=\rho (0)=0} ゆえ ρ(H) ⊂ H である。したがって H 上で ρ は適当な整数を掛ける操作に他ならないから、ρ′ としては Z/eZ 上で同じ整数を掛ける準同型を取ればよい。

定理の証明 — G の位数 n に関する帰納法により示す。

分解の存在
n = 1 のときは空列を取ればよい。n > 1 として、位数が n より真に小さい任意の有限アーベル群に対して所期の分解が存在すると仮定する。G を位数 n の有限アーベル群、e をその冪数とすれば、冪数の性質(フランス語版)により G は位数 e の巡回部分群 C1 を持ち、(補題 1 により)適当な部分群 K により G = C1 × K と書ける。帰納法の仮定により、K は適当な巡回部分群の列 C2, …, Ck の直積であり、i = 2, …, k − 1 に対して Ci+1 の位数は Ci の位数を割り切る。さらに、e および C1 の定義により C2 の位数は C1 の位数を割り切る。
分解の一意性
n = 1 のときはよい。n > 1 のとき、位数が n より真に小さい任意の有限アーベル群に対して所期の分解の一意性が成り立つと仮定する。G を位数 n の有限アーベル群とし、G の所期の直積分解が G = C 1 × × C k = C 1 × × C {\displaystyle G=C_{1}\times \dotsb \times C_{k}=C'_{1}\times \dotsb \times C'_{\ell }} と二通りに、各直積因子の位数の列 (a1, …, ak), (b1, …, b) が所期の整除条件を満たすように与えられたとする。xC1 の生成元とし、第二の分解における x の成分を (y1, …, y) とすれば、x の位数は G の冪数 e に等しいのだから、少なくとも一つの添字 j0 が存在して yj0 が位数 e となる(このとき b1 = ⋯ = bj0 = e となることに注意せよ)。第二の分解におけるC'j0C1 で置き換えても、和はやはり直積であり、等式 i C i = C 1 × j j 0 C j {\textstyle \prod _{i}C_{i}=C_{1}\times \prod _{j\neq j_{0}}C'_{j}} も保たれる。C1 によるをとれば i > 1 C i j j 0 C j {\textstyle \prod _{i>1}C_{i}\simeq \prod _{j\neq j_{0}}C'_{j}} を得て、(帰納法の仮定により)(a2, …, ak) = (b1, …, bj0−1, bj0+1, …, b) が成り立ち、したがって (a1, …, ak) = (b1, …, b) を得る。

応用

  • 上記の分解において、G の冪数は a1 に等しく、また G の位数は積 a1ak に等しい。したがって、有限アーベル群の位数がその冪数以下となれば、それは巡回群である。特に、可換体の乗法群の任意の有限部分群は巡回群になる[2]
  • 二つの有限アーベル群が同型となるのは、各位数の元の数がそれら二つの群において一致するときである。実際、このデータから単因子が求められる[3]。「アーベル」であるという条件を欠かすことはできない: 例えば、任意の奇素数 p に対し、位数 p3 かつ冪数 p の群がふたつ存在する[4]。それはアーベル群 (p)3Fp 上のハイゼンベルク群である。

注釈

出典

  1. ^ 服部昭『現代代数学』朝倉書店〈近代数学講座 1〉、1968年。「有限群の元の位数の最小公倍数を冪数と呼ぶ」 
  2. ^ (en) E. B. Vinberg, A Course in Algebra, AMS, coll. « GSM (en) » (no 56),‎ (ISBN 978-0-82183413-8, lire en ligne), p. 336–337.
  3. ^ Vipul Naik. "Finite abelian groups with the same order statistics are isomorphic". groupprops.subwiki.org. 2022年12月27日閲覧 および McHaffey, Ronald (1965). “Isomorphism of finite abelian groups”. Amer. Math. Monthly 72 (1): 48–50. JSTOR 2313001. 
  4. ^ McHaffey 1965.

関連項目

参考文献

  • (ドイツ語)Kronecker, Leopold (1870). “Auseinandersetzung einiger Eigenschaften der Klassenzahl idealer complexer Zahlen”. Monatsber. K. Akad. Wissenschaft Berlin: 881-889. Zbl 02721142. https://books.google.co.jp/books?id=A5HWH-WOwb0C&pg=PA273. 
  • Serge Lang, Algèbre [détail des éditions]
  • (フランス語) Jean-François Labarre, La théorie des groupes, PUF, 1978
  • (英語)Navarro, Gabriel (2003). “On the Fundamental Theorem of finite abelian groups”. Amer. Math. Monthly 110 (2): 153–154. JSTOR 3647777. 
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