ディラック共役
ディラック共役(ディラックきょうやく, 英: Dirac adjoint)とは、場の量子論においてディラック・スピノールに対して定められる双対操作である。ディラック共役は、スピノールを組み合わせて作った量がよい振る舞いを示すよう、上手く形式化するために作られた。普通のエルミート共役は系のローレンツ対称性を欠くため、代わりにディラック共役が用いられる。
定義
ディラック・スピノール ψ のディラック共役 ψ は、次のように定義される:
ここで ψ† は ψ のエルミート共役、γ0 はガンマ行列。
ローレンツ変換の下でのスピノール
特殊相対論のローレンツ群はコンパクトではない。 そのためディラック・スピノール空間におけるローレンツ変換の表現(英語版)はユニタリーではない。これは一般に
として表される。ここで λ は、次のようにスピノールに対して作用するローレンツ変換である:
- .
この時スピノール ψ のエルミート共役 ψ† は、次のように変換される:
- .
そのため、通常のエルミート共役を用いた ψ†ψ はローレンツ・スカラー(英語版)とならない。また ψ†γμψ も自己共役にならない。
ここでディラック共役の定義を用いると、ψ は次のように変換されることが分かる:
- .
ここでガンマ行列の公式 1 = γ0γ0 とローレンツ代数の公式 γ0λ†γ0 = λ−1 を用いると、ディラック共役の次のような変換性が得られる:
- .
この結果、ディラック共役 ψ を用いた ψψ は
とローレンツ・スカラーの変換性を満足する。また ψγμψ も自己共役となる:
- .
利用法
ディラック共役を用いて、スピン1/2の粒子場に関する4元確率の流れ J を次のように表すことが出来る:
ここで c は光速、J の成分は密度 ρ と3元確率の流れ j を表す:
- .
μ = 0 と取り、再びガンマ行列の公式 1 = γ0γ0 を用いると、確率密度は次のようになる:
- .
参考文献
- B. Bransden; C. Joachain (2000). Quantum Mechanics (2nd ed.). Pearson. ISBN 0-582-35691-1
- M. Peskin; D. Schroeder (1995). “Chapter.3 The Dirac Field”. An Introduction to Quantum Field Theory (2nd ed.). Westview Press. ISBN 0-201-50397-2
- A. Zee (1995). “Dirac bilinears”. Quantum Field Theory in a Nutshell (2nd ed.). Princeton University Press. p. 97. ISBN 0-691-01019-6
関連項目
- ディラック方程式
- ディラック場 ℒ = ψ(iγμ∂μ - m)ψ
- ラリタ=シュウィンガー方程式
- エルミート共役